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大阪高等裁判所 平成12年(ネ)727号 判決 2000年6月22日

控訴人

小西喜代之

被控訴人

西田朋美(原告)

主文

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決三頁一行目から一二頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第三判断

一  当裁判所は、被控訴人の請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 判断」(原判決一二頁六行目から二二頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一三頁六行目の「加害者両」を「加害車両」と訂正し、同行の「信号待ち停止」の前に「先頭の状態で」を加え、九行目の「六三センチメート」を「六三センチメートル」と訂正し、一〇行目の末尾に「当時、加害車両・被害車両の走行していた南から北へ向かう道路は、第一車線・第二車線ともに著しい渋滞状態にあった。」を加え、末行の「被害車両が発進しようとしたところ」から一四頁一行目の「接触し」までを「被控訴人が被害車両を発進させようとしたか、あるいは発進させた瞬間、それと同時かあるいは若干早く停止状態からそのまま真っすぐ発進した加害車両の右前角と被害車両とが接触し」と改める。

2  原判決一四頁一〇行目の次に行を改めて、「7 加害車両は、車長一二・〇メートル、車幅二・五メートル、車高三・七七メートルの大型貨物自動車であり、被害車両は、車長一・六メートル、車幅〇・六三メートル、車高一・一五メートルの原動機付自転車である。」を加える。

3  原判決一五頁一行目から一〇行目までを次のとおり改める。

「 右に認定の事実によれば、控訴人は加害車両を発進させるに当たり、その右側やや前方に被害車両があることに気がつかず、その動静を確認しなかったことにより本件事故を発生させたものであるから、前方左右の注視義務に違反した過失がある。控訴人は、発進時点において、前方を目視し、アンダミラーで加害車両フロント付近を確認したけれども被害車両を発見できなかったのであるから、被害車両は死角に入っていたと主張し、控訴人本人尋問の結果(原審)中にもこれに沿うかのような部分がある。しかし、右の供述部分は、前記3で認定したとおり、被害車両の停止位置が加害車両の運転席右横からやや前方付近であったこと及び甲第二号証中の死角検査見取図に照らしてにわかに採用できず、他に、被害車両が死角に入っていたことを認めるに足りる証拠はない。

他方、被控訴人は、被害車両を運転し、著しい渋滞状態にあった第二車線上の車両の右側を、車両と右側縁石との間をぬうようにして、先頭で信号待ちのため停止中の加害車両の運転席右横からやや前方付近に進出し、対面信号が青色に変わったのを見て被害車両を発進させようとしたか、あるいは発進させた瞬間、同時かあるいは若干早く停止状態からそのまま真っすぐ発進した加害車両と被害車両とが接触し、本件事故に遭ったものである。

ところで、原動機付自転車については、道路交通法上は、同法三四条五項など特定の場合を除き、原動機付自転車であるが故に他の車両・自動車と異なる走行方法をとらなければならないとする具体的規制はないにしても、そもそも原動機付自転車を含む車両は、本件道路のような車両通行帯の設けられた道路においては、原則として、道路の左側端から数えて一番目の車両通行帯を通行しなければならないものであるだけでなく(道路交通法二〇条一項参照)、原動機付自転車は、車両とはいっても二輪車であり、発進時には安定を失い易く、走行上の危険性の度合いにおいても、構造上・機能上、四輪車とは自ずと異なる面のある特性を帯びていることはいうまでもなく、国家公安委員会の告示である「交通の方法に関する教則」や、原動機付自転車の運転免許取得のための参考書などにおいても、それを当然の前提として各種の説明・指導がなされている(乙二ないし四)。例えば、右の「交通の方法に関する教則」では、原動機付自転車を含む二輪車の運転の方法に関し、「二輪車の運転者の心得」として、「自動二輪車や原動機付自転車は、体で安定を保ちながら走り、停止すれば安定を失うという構造上の特性を持っているため、四輪車とは違った運転技術を必要とします。また、二輪車の動きが四輪車からは見えないことがあるので、周りの交通の動きについて一層の注意が必要となります。手軽な乗り物であると気を許さないで、常に慎重に運転しましょう。」、「安全な運転の方法」として、「二輪車は機動性に富んでいますが、車の間を縫って走ったり、ジグザグ運転をしたりしてはいけません。そのような運転方法は極めて危険であるばかりでなく、周囲の運転者にも不安を与えます。交通渋滞のときなどには、前の車に乗っている人が急にドアを開けたり、歩行者が車の間から飛び出したりすることがあるので注意しましょう。」などとしている(乙四)。そして、原動機付自転車の運転者において、原動機付自転車の前記のような構造上・機能上の特性に十分な注意を払い、それを踏まえて安全な運転を行うべきことは、運転者自身の身を守るためであることはもとよりであるが、それに止まるものではなく、同時に、道路交通法七〇条所定の安全運転の義務として、他人に危害を及ぼさないためにも要請されているものと解するのが相当である。

右に述べたところを本件について見るに、事故直前の被害車両の走行形態・被控訴人の運転方法等は前記のとおりであって、被控訴人は、渋滞した車両の間をぬって、はるか見上げるような大型貨物自動車である加害車両が先頭で信号待ちをしており、その右側面と右側縁石との間には僅か約八五センチメートルという隙間しかない所へ、車幅六三センチメートルの被害車両を加害車両にほとんど触れんばかりにして進出させ、信号が青色に変わると同時に被害車両の発進を図ったものである。それは、自車の発進時にはそれ自体とかく安定を失うことがあり得るだけでなく、自車を右のような位置関係におくにおいては、大型貨物自動車発進時の風圧や威圧感・圧迫感による影響も当然に予見し得べき原動機付自転車の運転者としては、道路交通法七〇条の求める安全運転義務の趣旨に著しく悖る危険な走行方法・運転方法であったというべきである。

以上認定説示したところに加えて、控訴人には、前記認定の過失はあるにしても、控訴人は、要するに、先頭で信号待ちをして停止させていた加害車両を信号が青色信号に変わったのでそのまま真っすぐ発進させただけのことで、進路変更等のハンドル操作も全くうかがえないこと等の事情を総合勘案するならば、本件事故の発生については、控訴人・被控訴人、いずれも責められてしかるべきであり、その過失割合は、控訴人六割、被控訴人四割と認めるのが相当である。

なお、被控訴人は、本件事故は、実質的には、控訴人が加害車両右前角を被害車両左後部に追突させたものであると主張するが、前記3及び4で認定したように、被害車両の停止位置が加害車両運転席右横からやや前方付近であったことと、加害車両は、要するに、青色信号に従って真っすぐ発進したにすぎないことに照らすならば、右主張のように評するのは相当とはいえない。右主張は採用できない。加害車両右前角に擦過痕があること(甲二)は、右の判断を動かすに足りない。」

4  原判決二一頁九行目から二二頁一行目までを次のとおり改める。

「8 右損害額につき、それぞれ四割の過失相殺をすると、次のとおりとなる。

(一) 治療費 五六三万二九一六円

(二) 休業損害 一一二万二五八八円

(三) その他 二九五万三三二〇円」

5  原判決二二頁三行目から八行目までを次のとおり改める。

「 労災保険療養給付九一〇万一六九四円を前記治療費から控除すると、治療費は既払いとなり、労災保険休業給付七六万八五〇四円を前記休業損害から控除すると、残額は三五万四〇八四円となり、これにその他の損害額を加えると三三〇万七四〇四円となる。右三三〇万七四〇円円から自賠責保険金三四四万円を控除すると、損害額は既払いとなる。」

6  原判決二二頁九行目から末行までを次のとおり改める。

「五 弁護士費用

被控訴人の本訴請求は理由がない以上、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用も認めることはできない。」

二  結論

以上によれば、被控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。よって、右と異なる原判決は不当であるから、原判決中、控訴人敗訴部分を取り消した上、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞 鎌田義勝 松田享)

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